大衆酒場に学ぶ繁盛哲学 〜横須賀 忠孝 その3〜
昭和の肝っ玉母さんの味
「忠孝」の店を継いだ親戚は、面倒なモツの処理や自家製のタレ作りをやめてしまったらしい。当然、味は落ちる。常連客は離れ、売上は急速に落ち込んだ。窮状を見かねた小金さんが、代わって店を立て直し、「忠孝」は元の繁盛店に戻ったのだ。
「立て直しといっても、昔のやり方に戻しただけなんですよ。
まあ簡単に言えば、新しいものを仕入れて、その鮮度をできるだけ保って出す。
うちは冷凍物とかは、一切使いません。
やきとりの串刺しもその日の昼から作業して、刺したものは、その日に売り切っちゃう。
焼く時の炭も、本物の紀州の備長炭です。
炭を起こす時には中国産の備長炭を使いますが、焼く本番の時は紀州を使う。
横須賀で、本物の紀州を使ってるところはうちだけだと思いますよ。
そういう目に見えないところに、努力しているんです」
仕込みやタレ作りばかりではなく、先代以来の営業スピリットも復活した。
「忠孝」という少し古めかしい名前は、戦前の儒教道徳を、先代が換骨奪胎して掲げた店のモットーでもある。
「忠孝という言葉はもともとは国に忠実に、親に孝行するという意味ですよね。
それをうちの先代は、忠実に店を守りながら、来ていただけるお客さんに孝行するという意味に読み替えて、
店名にしたんです。それを私は教わって、いまも店のモットーにしています」
お客への「孝行」として、創業当初から変わらず続いているのが無料のお通しだ。
大根おろしにウズラの生卵が落としてあり、
「やきとり」を食べる際には、最低限の野菜を食べましょうという心遣いが込められている。
おそらく横須賀で一番濃いという極濃のホッピーも、こうした「孝行」の一環のようだ。
「これも先代からで、焼酎を正1合入れる。横須賀のほかの店はだいたい0.8合くらいなんです。
一般の、フランチャイズの居酒屋などで出しているホッピーには、
うちの2分の1くらいしか焼酎は入ってないと思いますよ(笑)。
ジョッキと焼酎、ホッピーはよく冷やしてありますから、氷は入れません。
そもそもホッピーには、氷は入れるものじゃないんですね。
あとは、お客さんの好みで、どう飲むかは自由です。
ほかの店に比べて、なぜ焼酎が多いかというと、やっぱりお客さんの気持ちを考えて、
きゅっと威勢良く飲んでもらおうということだったんでしょうね。
ただし、うちで飲めるホッピーは3杯までという決まりが、昔からあるんです。
それ以上飲むと、悪酔いしちゃう人が多いですから」
明日も早いんだろう?キュッと飲んで、早く寝ちまいな!かつての「忠孝」では、
そんなやり取りが繰り返されたに違いない。
「忠孝」の店内には、いまも先代の女社長の写真が飾ってある。
その写真を眺めていると、苦労を重ねて横須賀にたどり着き、
飲んべえたちを叱咤激励しながら、
夫が残した店を守り通した肝っ玉母さん(こういう言葉も使わなくなったよねえ)の面影が彷彿とする。
満州焼と極濃ホッピーは昭和の肝っ玉母さんの味なのだ。
で、今回の金言。
「忠孝」は店内の男っぽさが魅力ですね。
女性客があまり多いと、オジサンは、酒場でうまくリラックスできないんですよ。
「本当にそうでしょうね。女性客を取れるようにするには、トイレを豪華にするような工夫も考えられます。
うちの店はもう昔のままのカラーで行きたいので、あえてそういうことはしないようにしています」
文:ライター桶谷 写真:ソウル久我山
取材協力:忠孝
横須賀市若松町3−12 電話0468-22-4174 営業16時半〜深夜1時












