「仲間と歩む、独立の形」

『仲間と歩む、独立の形』Vol.04

issa(いっさ)

「最近では豆乳を使ったドリンクを扱うカフェも増えてますけど、

うちの抹茶ラテの味は絶対に世界一だと思って出してますよ」

「日本茶と豆乳の美味しいカフェissa」のオーナー阿部紘也さんは

おだやかな笑顔をたたえながらも商品に対する絶対の自信をさらっと言い切る。

そもそも阿部さんは「カフェは緊張するからあまりいかない」と話す“変化球派”のカフェオーナー。

ならばいったい、どうしてカフェを開いたのか。これまでの経緯をお聞きした。

「issa(いっさ)」(東京千代田区・神田)
オーナー 阿部紘也さん
■ 表参道にいくと緊張するんですよ            

阿部さんは言う。「生まれ育ったのは東京の下町、門前仲町です。だからってわけでもないんですけど、表参道とか青山みたいなところにはほとんど行かないんですよ。表参道なんて地下鉄の駅を降りただけでいまだに緊張しますからね(笑)」。東京に住んでいると時々聞かれる話だが、東京で生まれ育った“東京人“は生活するエリアの外にあまり足を運ばないタイプの人間も少なくない。東京の山の手が苦手という阿部さんはさらに追い討ちをかけるように「実はカフェにもあまり行かないんです」とも。理由は「オシャレで緊張するから」だそうで。青山やカフェが好きな人間がカフェの経営者にふさわしいというわけではないが、苦手なカフェオーナーというのも珍しい。ではどうしてカフェをオープンさせたのですか、と聞くと中学校3年生の時の思い出を話し始めてくれた。

■ ケーキを食べてくれた時の笑顔が忘れられなくて

「中学校の時にお菓子作りがすごい好きだったんです。やたらとケーキを焼いてましたね。中学校3年生の時、当時付き合っていた彼女にケーキを焼いて渡したことがあったんです。そしたらすごく気に入ってくれて。これがきっかけで高校の進路を決めたようなものなんですよ」。中学を卒業して自ら選んだ高校は駒場学園食物科。「自分が作った料理を食べて喜んでくれる人の笑顔が見たい」。そんな夢を実現するために飲食関係の仕事に就こうと考えた阿部さんの選択だった。しかし、である。調理実習など実践的な技術を学んでいくうちに「自分は料理という作業自体は好きじゃない」と考えるようになる。「料理は好きじゃない」。そんな思いを抱きつつも卒業後、外食企業に就職。だが、どうしても合わずに数ヶ月で辞めてしまった。そこから深夜のコンビニでアルバイトをするフリーター生活を始めるようになる。

■ 接客と飲食を組み合わせ、カフェを思いつく

19歳から21歳まで約3年間は、「自分には何が向いているのだろうか」と考えながら過ごした。何かやろうと思った時のために貯金は欠かさなかった。そうしているうちにふと、自分の趣向に気づいたのはコンビニでレジを打っている時だった。「転機でしたね。自分は接客が好きなんだって気づいたんです」。飲食を学んだ経験と接客。自分が持っている二つの得意分野を組みあわせ、カフェを作ろうと思いつく。「僕にはこれしかなかったんです」(阿部さん)。2003年3月のことだった。まず、地元にも近い浦安のカフェでアルバイトをしながら企画を練った。「コーヒーが苦手」だった阿部さんの頭には日本茶カフェというイメージが湧いてきた。日本茶アドバイザーの資格を取り、開業準備を始めた。

■ 神田須田町に新築物件を見つける

物件は当初、地元の門前仲町や土地勘のある人形町付近で探した。しかし、なかなかイメージにあう物件が見つからない。そんな時に現れたのが、神田駅と秋葉原駅の中間付近の大通り沿いに建った新築ビルの1階物件。15坪、家賃は約30万円、保証金8ヶ月の物件だった。地元からはやや離れていたが、多少妥協してこの物件に決めた。内装は物件を紹介してくれた不動産店の紹介設計会社に依頼、厨房機器は約半分を中古で揃えた。内装費と厨房機器にかかった費用は約500万円。フリーター時代に貯めた数百万円と知り合いの伝手をたどって銀行から融資を受けた1000万円を開業資金に充てた。スタッフはどうしても立ち上げに参加して欲しかったが連絡の途絶えていた男性スタッフB氏を苗字だけを頼りに家を探し出した。こうして、阿部さんとB氏をはじめとするスタッフ3名と一匹の金魚がそろう。自らカフェで提供する商品を開発して2004年3月、一軒のカフェをオープンさせた。

■ 秋葉原の盛り上がりが打撃に

「一杯のお茶を大切に」という意味を込めて店名は「issa」と名づけた。しかし、オープン当初の数ヶ月は何度ももうだめだと思ったという。当時のスタッフ連絡帳を見返すと「今日は史上最高の売上を達成しました!3万円です」という書き込みがあったというから続けられないと思ってしまうのも無理はない。しかし、豆乳を使ったドリンク、ソイスイートがじょじょに人気になり、様々な豆乳ドリンクを開発し、メニューに並べると毎月の売上はなだらかに右肩上がりを描き始めた。当初、日本茶カフェだったissaに豆乳という強みが加わり、2005月の9月まで毎月の売上は上がり続けた。「去年の秋が売上のピークでしたね。2店舗目の物件探しを始めたのもこの頃でしたから。ところが、意外な落とし穴があったんです」。落とし穴。それはヨドバシカメラ秋葉原店のオープンである。秋葉原駅周辺の開発が進むに連れ、秋葉原周辺に飲食店が増加。それにともない、開発エリアに足を向ける客が増えたのだ。秋口からじょじょに売上が落ち始めた。しかし、様々なてこ入れ策を講じた結果、なんとか今年に入って売上も持ち直してきた。

■ ほとんど家には帰らない日々

同店では、毎月第1土曜日に豆乳好きが集まって豆乳を楽しむ「豆乳組」というイベントを開催している。新しい試みに対する努力は惜しまない。オープンしてもうすぐ2年になるが、最近になって日曜日と祝日は休日にすることにした。商品開発をはじめ、休日でないとできない業務も増えたためだ。阿部さんは休みの日でもほとんど店にいるという。「この店をオープンさせてからほとんど家には帰ってません。せいぜい週に一回程度です。このぐらいの覚悟がないならカフェを開くのはやめたほうがいいですよ」。阿部さんの夢は都内のすべての駅前にソイスイーツが楽しめるショップを展開すること。上場したいという夢も持っている。とりあえずの目標は2007年度に2店舗目をオープンさせること。「10のうち1つ実現すればいいなと思って夢はたくさん持っているんです」。話を聞いているうちに、なるほど阿部さんなら近々確かに一つは実現するだろうなと思わせてくれた。最後に真剣な目つきで「歴史に名前を残したいですね」と若きオーナーは笑った。

 

“カフェ砂漠”の神田で奮闘中
店内は女性客が7割。常連がほとんど
ゴマとハチミツ入りの「ごまはち」(330円)、チーズケーキとイチゴ入りの「チーズケーキ」(370円)

 

【 2005/12/20 】エフラボ!取材


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