ウィークリーコラム

大衆酒場に学ぶ繁盛哲学 〜横須賀 中央酒場その4〜

最終話

お客の胸中のシナリオに応える肴

 ホッピー話が続いてしまったが

「中央酒場」にはほかの酒も、もちろんある。

ただ、ビールはキリンのみ。

ハートランドの瓶ビールがあるのは、キリン好きには何とも嬉しい。

ちゃんと固定ファンがいて、グループでいつも5〜6本飲んでいく客がいるという。

また、井上社長はスーパードライ嫌いだ。

確かに、あれはコクがないからねえ。

ドライなのを飲みたければ、ホッピーを飲めばいいんだしさ。

さらに酒は菊正宗、焼酎はいいちこといった具合で、

そこらのいまできの居酒屋のように、銘柄をあれこれ揃えることはしない。

井上社長が自分で飲んで、これはと思った好みのものしか置かないからだ。

 というわけで、酒は厳選なのに対して、酒の肴のほうは一転して膨大な数にのぼる。

カウンターの上には、黒地に白で書かれたお品書きの木札が、ずらり、みっしりと並んでいる。

刺身類はもちろん、野菜、てんぷら、炒め物、揚げ物、焼き物、鍋等々、100種類を軽く超える。

だいたいぬただけでも、普通のぬたといわしぬた、あおやぎぬたの3種類があるのだ。

私が好きなのは、例えばしこ刺身。

しこはイワシの稚魚だが、横須賀では年中、普通に出てくる肴だ。

ほの苦い味わいが、海辺の町ならではで、食べつけるとクセになる。

ほかに地だこぶつ切り、あかにし、明太おろし、うど、新しょうがなどなど、

酒飲みの心をくすぐる肴満載である。

煮込みやニラ玉ホルモンなど、モツ系にも怠りはない。

 こうしたメニューのみっしり感も、大衆酒場の大きな魅力ではないだろうか。

壁一杯にお品書きの札がみっしりと並んでいると、

次は何を食べようかと、あれこれ思いめぐらすだけで幸せになる。

「それは、飲んべえ共通の心理ですよねぇ。

専門店じゃないんで、あれこれ揃っていたほうが。

好みも、人それぞれですからね。

京浜急行の駅を下りて、うちに飲みに来るお客さんは、あらかじめシミュレーションするらしい。

まずはシコ。シコがなければアジかイワシ、次に焼売とかね。

そういう連想を、うまく引き出すのが、飲み屋の心得ですね。

ただ、うちは食堂じゃなくて飲み屋なんで、食事類は一切やってない。

カツ煮はあってもカツ丼はないんです」

 なるほど、正しい哲学だ。

私思うに、大衆酒場の女性比率は3割までが限度。

食事類があまり充実していると、女性比率が5割を超えて、食堂の雰囲気になる恐れがある。

そうなると、飲んべえのオヤジが立ち寄りにくくなってしまうのだ。

まあ、全体の2割程度、ものを弁えた化粧っけのない女性がいる分には良いんだけれどね。

 

最後に、今回の金言。

 

井上社長、大衆酒場の真髄とは?

「結局、真面目にやってるってことでしょうね。

普通の居酒屋と何が違うかというと、オーナーがちゃんといますから。

そういう人が自分の色を出して、真面目に商売しているのが第一ですよ」

 

 

 

 

文:ライター桶谷 写真:ソウル久我山
取材協力:中央酒場
横須賀市若松町2−7 電話0468-25-9513 営業10時〜22時半 日曜祭日休み

 

 


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